山形ドキュメンタリー映画祭

murakawahide2007-10-14



山形国際ドキュメンタリー映画祭に行って来ました。私も国内外の映画祭はずいぶん行ってますが、ここは規模といい、雰囲気といい、純粋に映画に向き合える稀有な場所でしょう。昔、大島渚は「映画の共和国」という言い方をしてましたが、まだそうした雰囲気が残っています。しかも市民ボランティアが生き生きと参加している新しいスタイルの映画祭です。
 
 作品応募数が109カ国から1163本。ドキュメンタリーだけで、しかもプロのドキュメンタリー作品がほとんどですから、ここでの受賞はとても価値のあるものです。限られた日数でしたが、コンペテションで見た作品が優秀作品として受賞していたのはラッキーでした。

 ロバート&フランシス・フラハティ賞受賞は、中国の王兵ワン・ビン)監督の「鳳鳴(フォンミン)−中国の記憶」です。右派というレッテルで、1950年代の政治闘争で粛清され迫害を受けた女性の一生が、彼女の語りだけで綴られてゆくという壮大な叙事詩でした。183分、カメラほとんどすえっぱなし。彼女の部屋で語りだけなのに、どんどん引き込まれてゆく素晴らしいものでした。
 
 王兵監督は「鉄西区」でも受賞している実力派です。北京電影学院出身です。電影学院はうちの大学とも関係があり、ぜひ、うちの大学にも来ていただいてお話を伺いたいものだと思いました。それにしても今の中国はドキュメンタリーが面白いですね。2005年に山形で上映された「水没の前に」とか、ジャ・ジャンクーの「長江哀歌」(これはドキュメンタリーではないけれど)              
 今年も三峡ダムを撮った女性監督フォン・イェンさんの『稟愛」が小川紳介賞を受賞しました。私が1995年に四川省で開かれた中国映像祭の審査員をやっていた頃は、中国ドキュメンタリーは雲南少数民族のドキュメンタリーくらいしか見ることは出来なかった。中国のドキュメンタリストたちが、これからどのような作品を見せてくれるのか、非常に興味あるところです。
 
今年の企画ものでは『交差する過去と現在ードイツの場合」が戦争の記憶と記録、東西ドイツ戦後史再考、東ドイツの痕跡の三つをテーマに若い世代のドキュメンタリストの作品も含めて、戦争体験をどのように受容してゆくかという切実な問題を提起してました。 

 今年は『阿賀に生きる」の佐藤真さんが亡くなったり悲しい事件がありましたが、小川紳介さんに関しては、少し嬉しい話を聞きました。この映画祭が始まった時、山形に国際批評家連盟賞を出してもらうように、国際映画連盟にお願いしたことがあります。当時はカンヌやヴェネチアで国際批評家連盟の審査員をしていたので、橋渡しが出来ました。小川さんはこれで山形も国際的に認めてもらえると大喜びだったとか。少しは山形のために役立ったかな?
 
 ここに来ると世界中のさまざまな問題に直面せざるえないのですが、優れた映像作家は映像ジャーナリストであり、現代の戦士のようにも感じます。久しぶりに映画ジャーナリストに戻って、一日5本くらい見てました。
(なお、写真は王兵さんのものです。不鮮明で申し訳ありません)