プラダを着た悪魔

 話題の映画「プラダを着た悪魔」を見てきました。
メリル・ストリープは、女性映画評論家の間では、どうも嫌われるタイプのようです。競争社会を生き抜く辣腕のファッション界の編集長という役割に、ついついメリルストリープの女優としての人生を重ね合わせて見てしまいました。
 日本では「クレーマー、クレーマー」あたりから、ブレークしたと思いますが、カレル・ライスの「フランス軍中尉の女」で男に棄てられるヴィクトリア時代のガバネス(住み込みの家庭教師)の悲劇と現代の知的な女性の二役を演じるストリープの女優としての繊細な巧さと、天性の声のよさ、肌の美しさなどに圧倒されたのを覚えています。続く「ソフィーの選択」もストリープならではの迫力がありました。
 それからのストリープは「シルクウッド」から「黄昏に燃えて」、「愛と哀しみの果て」、「愛と精霊の家」、「マディソン郡の橋」などという快作(?)もありました。よく、日本にやって来て、記者会見も何回もやっていましたが、巧すぎるのが嫌われるのか、「何でもやれます」ストリープが鼻についてしまったのか、もっと評価してあげていいのにと思ってました。
 まあ、私が彼女に点が甘くなったのも、今年の夏、ニューヨークのセントラルパークで、ブレヒトの「肝っ玉おっかあ」を見たためかもしれません。「ソフィーの選択」のコンビであるケビン・クラインと出てましたが、天性の声の美しさ、美貌(この芝居にはちょっと美しすぎるのではないかと思いましたほど)で戦争の悲劇を大きなスケールで演じていました。舞台のストリープを見るのは初めてでしたが、演劇人ストリープには、映画女優ストリープの何倍もの魅力を感じたのです。同時に今後のストリープは、大女優に向けて一段と飛躍するであろうとも感じました。
プラダを着た悪魔」は、手練手管の編集長の辣腕ぶりは、むしろ背景となって(彼女のドタバタぶりも、見たかったのですが)、そこで鍛えられる若い女性の成長物語です。あまり期待せずに出かけたのですが、熱演型の彼女ではなく、大人のメリル・ストリープを心地よく感じた映画でした。